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熊本地方裁判所 昭和53年(ワ)39号 判決 1980年5月13日

原告

渡邊隆照

被告

酒井俊光

ほか二名

主文

被告酒井俊光及び被告酒井保は各自原告に対し金一四七九万四二八〇円及びこれに対する昭和五〇年三月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告共栄火災海上保険相互会社は原告に対し金七九七万〇八五〇円及びこれに対する昭和五三年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を被告酒井俊光及び被告酒井保の連帯負担とし、その一を被告共栄火災海上保険相互会社の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告酒井俊光及び被告酒井保は各自原告に対し金三八七八万四二一五円及びこれに対する昭和五〇年三月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。被告共栄火災海上保険相互会社は原告に対し金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五三年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因等として、

一  被告酒井俊光は、昭和五〇年三月一一日午後八時頃、熊本県阿蘇郡波野村大字小池野一七七の二先国道五七号線道路を普通貨物自動車(以下、加害車という)を運転して進行中、進路前方に停車中の貨物自動車の右側方を通過するため、中央線を越えて対向車線内に進出して進行するにあたり、対向車の有無等前方に対する安全確認義務を怠つた過失により、折から対両して来た原告運転の自動二輪車(以下、被害車という)に衝突し、原告と被害車後部座席に同乗していた訴外小野総一郎を転倒させ、原告を負傷させた不法行為者である。

二  被告酒井保は、加害車を保有し、農業兼青果物販売業を営み、右業務及び家事用として加害車を運行の用に供するものであり、被告俊光は、被告保の長男であつて、同被告と共同して同被告の右業務に従事し、右業務のため加害車を運行しているものであり、ともに加害車の保有者の地位にあるものである。

したがつて、被告保は、自賠法三条により、被告俊光は、自賠法三条または民法七〇九条により、それぞれ、原告が右事故により受傷した結果蒙つた損害を賠償する責任がある。

三  原告は、右事故により、頭部外傷Ⅲ型、顔面挫創、右膝関節部、足関節部挫創(腓骨々頭部骨折、腓骨神経麻痺、眼窩外縁骨折、眼球露出)の傷害を受け、現在なお、右眼失明、左眼視力〇・五以下の視力低下、顔貌に醜形を残す等の後遺症状が在する。

四  右受傷により原告が蒙つた損害は、次のとおりである。

(一)  治療費

(1)  入院治療費 合計 六四万六三六〇円

<省略>

(2)  通院治療費 合計 七万九九八四円

<省略>

(二)  治療のために要した交通費 合計 九万九四二〇円

(1)  九州大学歯学部付属病院通院分(原告及び附添人一名一回金五〇〇〇円)計四万円

(2)  東京都港区所在十仁病院通院分(原告及び附添人一名)計五万九四二〇円

(三)  附添費 一六万三〇〇〇円

阿蘇中央病院、九州大学歯学部付属病院各入院期間中、原告の実父母が付添に当つたが、一人一日三〇〇〇円相当の損害となる。

(四)  逸失利益 三三九五万五四五一円

原告は、本件事故時、満一八歳の健康な男子であつて、熊本高等学校卒業予定で、九州大学工学部水工土木学科を受験合格していたものであるが、右合格発表直前に本件事故により受傷したため、入学を一年延期し、昭和五一年四月入学したものの、一年間留年して昭和五二年四月まで治療を継続することを要したほか、右眼失明、左眼〇・五以下の視力低下等の後遺症状のため、勉学上著しい障害があり、教養部に留年を続けても留年期限である三年六ケ月内に必要単位を修得できる見込はなく、同大学を退学せざるをえない状態である。したがつて、原告は、高校卒業者として就業するほかないものであるが、前記後遺症状のため、就職にも種々困難が予測される。

しかして、原告は、本件事故による受傷がなければ、昭和五五年三月同大学を卒業し、同時に就職することができたものである。本件事故時の満一八歳の男子の平均余命は五五・二年であるから、原告は、大学卒業時から満六三歳に達するまで少くとも四〇年間就労可能であつたものであり、中央労働委員会事務局調査の昭和五一年六月における大学卒業者の年齢別月額平均賃金表を基準に、将来の昇給分をも加味して年五分の中間利息を控除して、原告の右稼働期間内の総収入額の現価を算出すれば、金五六五九万二四一九円となるところ、原告は前記後遺症状のため、少くとも六〇%の労働能力を喪失したものと認められるから、その逸失利益は、金三三九五万五四五一円となる。

(五)  慰藉料 金七〇〇万円

原告は、本件受傷により著しい苦痛を受けたのみならず、大学進学に遅れ、さらに入学後も必要単位の履修ができず、中退の止むなきに至つているものであつて、その精神的損害は甚大であり、その慰藉料額としては金七〇〇万円が相当である。

(六)  弁護士費用 一〇〇万円

原告は、弁護士に委任して本件損害賠償請求をなしているものであるところ、弁護士費用として金一〇〇万円を要する。

五  右損害の合計額は金四二九四万四二一五円となるところ、自賠責保険より合計金四一六万円の補償金の支払を受けたので、残損害額は金三八七八万四二一五円となる。

よつて、原告は、被告俊光及び被告保の両名のそれぞれに対し、本件損害賠償として、右金三八七八万四二一五円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年三月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

六  被告保は、昭和四九年五月三一日、被告共栄火災海上保険相互会社(以下、被告会社という)との間に、加害車について、対人賠償保険金額一〇〇〇万円、保険期間昭和五〇年五月三一日までの自動車保険契約を締結している。したがつて、被告会社は、右保険期間中に加害車によつて発生した本件事故により、被保険者たる被告保が負担することとなつた前記損害賠償責任額のうち金一〇〇〇万円の限度で、同被告の損害填補として右保険金を支払うべき義務がある、被告会社は、本件事故発生直後、被告保から事故発生の通知を受けているに拘らず、右保険金を支払おうとしない。

よつて、原告は、被告保に代位し、被告会社に対し右保険金一〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年二月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

七  被告主張第二項の事実は争う。

被告主張第三項の事実中、小野が本件事故により被告主張のとおり負傷したこと、被告保が被告主張のとおり、小野に対し損害賠償の支払をなしたことは認めるが、その余は争う。仮に、原告にも過失があつたとしても、被告俊光のそれに比較して軽微であり、原告の過失割合は一割以下である。また原告に過失があつたとしても、小野に対する原告と被告俊光の各損害賠償義務は不真正連帯債務の関係に立つものであるから、相互に求償権は発生しないものである。

被告主張第四項の事実は認める。

と述べた。〔証拠関係略〕

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一  原告主張請求原因第一項の事実は認める。同第二項中、被告俊光が加害車の保有者であることは否認するが、その余の点は認める。同第三項中、原告が負傷したことは認めるが、その程度を争う。同第四項中、原告が阿蘇中央病院、町野外科医院、九州大学歯学部付属病院、熊本大学医学部付属病院に原告主張の日数に亘り入通院したこと、原告が弁護士に委任して本件請求をなしていることは認めるが、その余の点は争う。同第五項中、原告がその主張のとおり自賠責保険から補償金の支払を受けたことは認める。同第六項中、被告保が被告会社と原告主張の日に原告主張のとおりの自動車保険契約を締結したことは認めるが、その余は争う。

二  本件事故発生については、原告にも相当の過失があるから、本件賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。

すなわち、原告は、後部座席に小野総一郎を同乗させて、被害車を運転し、竹田市方面から一の宮町方面に向けて進行中、進路前方右側に大型貨物自動車が駐車しているのを認めたのであるから、対向車がその側方を通過する際中央線を越えて自車進路車線内に進入して来ることを予見し、かつ、同所が左カーブになつているうえ、照明設備もなく、見通しも悪い状況にあつたことをも考えて、適宜減速したうえ、道路左側端寄りに進行し、もつて、対向車との衝突を防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然時速八〇キロメートルの高速で中央線寄りに進行した過失により、右大型貨物自動車の側方を通過するためやむなく中央線を越えて対向して来た加害車を避けることができず、これと正面衝突したものである。

三  また、本件事故により、被害車後部座席に同乗していた訴外小野総一郎は、右膝蓋骨放骨折、右脛骨腓骨々折の傷害を受け、阿蘇中央病院、熊本中央病院において治療を受けた。被告保は、小野に対し、本件事故による損害賠償として金二九〇万三六〇〇円を支払つた。しかして、本件事故は、原告と被告俊光の双方の過失が競合して発生した共同不法行為であるところ、原告の過失割合は三割を下ることはない。したがつて、被告保は、小野に支払つた右損害賠償金のうち三割に相当する金八七万一〇八〇円につき、原告に対し求償権を有する。よつて、被告保は、右求償金債権をもつて、原告の本件損害賠償請求権とを対等額で相殺する。

四  被告保が被告会社と締結した自動車保険契約の保険金額は、一事故につき金一〇〇〇万円の約定であるところ、被告会社は、被害車に同乗して同じく負傷した小野に対する損害賠償として既に金二〇二万九一五〇円を支払ずみである。したがつて、右保険金の残額は金七九七万〇八五〇円である。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  原告主張請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、被告俊光が不法行為者として、被告保が加害車の保有者として、おのおの、本件受傷の結果原告が蒙つた損害を賠償すべき義務を負つているものであることは、被告らにおいて自白するところである。

二  原告の受傷の程度について判断するに、成立に争いのない甲第三ないし第七号証、第二一、第二二号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第九五号証、証人渡邊和夫の証言(第一回)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故の結果、頭部外傷Ⅲ型、顔面挫創、右頬骨々折、右眼失明、右膝関節部挫創、右腓骨々頭部骨折、右腓骨神経麻痺、右足関節部挫創の傷害を受け、現在なお、右眼の視力が極度に低下し殆んど見えないこと(矯正も不能)、顔面に瘢痕を残す後遺症状が在することが認められ、これの反証はない。

三  次に、本件受傷の結果、原告が蒙つた損害について判断する。

1  前顕甲第三ないし第七号証、成立に争いのない甲第八ないし第一九号証、第二三ないし第五九号証、第六〇、第六一号証の各一、二、第六二ないし第六四号証、第六五号証の一、二、第六六ないし第七二号証、第八八号証の一ないし四、第八九、第九〇号証、第九一号証の一、二、第九二号証の一ないし三、第九三号証の一、二、第九四号証の一ないし三、証人渡邊和夫の証言(第一回)により成立を認める甲第二二号証の一ないし三、第七三ないし第八五号証、第八七号証、証人渡邊和夫の証言(第一、二回とも)及び原告本人尋問の結果によれば、

(一)  原告は、次のとおり各入通院したこと、

(1) 入院

自昭和五〇年三月一一日至同年四月五日 阿蘇中央病院

自同年四月五日至同年六月二一日 町野外科医院

自同年六月二七日至同年七月二五日 九州大学歯学部附属病院

(以上、入院の点は当事者間に争いがない)

自昭和五二年三月九日至同月二四日 熊本労災病院

自同年八月四日至同月一八日 右同病院

自昭和五三年三月八日至同月一四日 右同病院

(2) 通院

自昭和五〇年六月二二日至同年一二月三一日 町野外科医院(昭和五〇年七月二九日以後の分については、当事者間に争いがない)

自昭和五〇年六月一六日至昭和五一年四月一日の間一三日間 熊本大学医学部附属病院(当事者間に争いがない)

昭和五〇年六月二三日 九州大学歯学部附属病院(当事者間に争いがない)

自昭和五一年一月一二日至同年九月八日の間七日間 九州大学歯学部附属病院(当事者間に争いがない)

昭和五〇年一一月二四日 東京都港区新橋十仁病院

自昭和五二年三月二九日至同年八月四日の間三日間 熊本労災病院

自昭和五二年四月七日至同月二六日の間六日間 国立福岡中央病院

(九州大学歯学部附属病院においては右頬骨の観血的整復、熊本大学医学部附属病院においては右眼瞼瘢痕巣除去、熊本労災病院においては右眼瞼下部の形成の各治療を受けた。東京都港区新橋十仁病院においては、右形成治療のための診察を受けた。国立福岡中央病院においては、右形成治療のため、切り取つた腰部の傷の治療を受けた。)

(二)  右入通院治療費の合計額が金七二万六三四四円(ただし、原告の請求額の範囲内において認める)であること、

(三)  九州大学歯学部附属病院及び十仁病院への各通院交通費として、少くとも合計金九万九四二〇円を要したこと(ただし、附添人一名の分をも含む)、

(四)  原告は、本件受傷により危篤状態に陥り、意識不明の状態を続け、ようやく一命を取りとめたものであつて、阿蘇中央病院に入院当初の九日間は家族三人が交代で看護し、その後五日間は二人が付添看護し、その後一二日間は一名が付添看護することを要したこと、九州大学歯学部附属病院入院の際には、入院当日二名が付添い、その後四日間一名が付添看護したこと、付添費用として少くとも原告主張の合計金一六万三〇〇〇円の損害を蒙つたこと、

が認められ、これらの反証はない。

2  次に逸失利益について検討する。

前顕甲第二〇、第二一号証、第九五号証、証人渡邊和夫の証言(第一、二回とも)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時満一八歳の健康な男子であつて、昭和五〇年三月高等学校卒業予定、九州大学工学部受験中であつたところ、その後同学部水工土木学科に入学許可されたものの、本件受傷のため一年間休学を余儀なくされ、昭和五一年四月入学したが、なお、治療のため一年間留年しなければならなくなり、昭和五四年九月までに教養部において修得すべき必要単位数を取得できないため、学部に進級することが許されず、退学せざるをえないこと、右眼視力が極度に低下する視力障害(殆んど見えず、矯正不能である)が後遺症状として残つているため、原告が志望していた土木関係の学業を修得することは断念し、文科系的な業務に就かざるをえないものであることが認められ、これの反証はない。しかして、原告の右後遺症状等に照らし、原告は、労働能力の四五パーセントを喪失し、その状態が生涯継続するものと認めるのが相当である。原告は、本件事故による受傷がなければ、昭和五四年三月九州大学工学部水工土木学科を卒業し就職することができ、満六三歳に達するまで就業し、収入をうることができたものである。成立に争いのない甲第八六号証の一ないし三によれば、中央労働委員会事務局調査にかかる昭和五一年六月における大学卒業者の年齢別の平均賃金額は、満二〇歳ないし二四歳、金一〇万九七九九円、満二五歳ないし二九歳、金一三万九四八〇円、満三〇歳ないし三四歳、金一九万〇一八八円、満三五歳ないし三九歳、二三万四一二八円、満四〇歳ないし四四歳、金二九万〇二八七円、満四五歳ないし四九歳、三三万八三五一円、五〇歳以上、金三六万七七〇二円である。よつて、右平均賃金額を基礎として、原告の逸失利益の現価をライプニツツ式係数により年五分の割合による中間利息を控除して算出すれば、別紙計算表のとおり金一七四三万円となる(但し、原告が満六三歳に達する年度の終りまでの期間とする)。

3  慰藉料について考えるに、本件事故の態様、原告の受傷の程度、後遺症状、原告の年齢その他諸般の事情を総合すれば、本件受傷に基く慰藉料額は金五〇〇万円が相当である。

4  原告は、弁護士に委任して本件請求をなしているものであるから、少くとも弁護士費用として金一〇〇万円の出捐を要するものと認められ、これは全額が本件受傷と相当因果関係ある損害と考えられる。

四  原告の本件事故発生についての過失の有無について考えるに、成立に争いのない乙第一ないし第一三号証、第一四号証の一、第一五ないし第一七号証(但し、乙第一〇号証、第一四号証の一中後記措信しない部分を除く)と前記の当事者間に争いのない本件事故態様とを綜合すれば、本件事故現場は、竹田市方面から一の宮町方面に向う幅員八・二二メートルのコンクリート舗装された国道であつて、うち東行車線の幅員は三・三メートル、西行車線の幅員は三・一メートルであること、一の宮町方面から事故現場方向を見た場合には、右カーブになつていて、しかも道路両側に人家や木立があるため、見通しがやや悪いこと、原告は、後部座席に友人小野総一郎を同乗させて被害車を運転し、竹田市方面から一の宮町方面に向けて西行車線の中央付近を進行し、時速七〇ないし八〇キロメートルで事故現場に接近し、同車線の外側線から約一・九メートルの地点で、対向して来た加害車の右側前部と衝突したこと、右衝突地点の左側部分には有蓋側溝部分を含めて約三・三メートルの余地があること、原告は、加害車の前方約三〇メートルを先行していた貨物自動車が、事故現場右側に駐車していた大型貨物自動車の側方を通過するため、中央線を越えて進行して来たのを認めながら、減速する等の措置を講ずることなくそのまま進行を続けて、同じく右大型貨物自動車の側方を通過するため、続いて中央線を越えて対向して来た加害車と正面衝突したものであることが認められ、乙第一〇号証、第一四号証の一中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば、原告においては、本件事故現場の状況に応じ、中央線を越えて対向して来る車両のあることを予見すべきであつたものであり、かつ、右予見にしたがい十分に減速して進行するなど適切な措置を講ずれば本件事故を回避することができたものと考えられ、したがつて、右予見義務を尽さず、安全な運転方法をとらなかつた原告にも過失があるものといわざるをえず、その過失の割合は、被告俊光の過失と対比すれば、本件事故発生につき二割の帰責事由あるものと考えるのが相当である。

したがつて、原告の前記各損害合計額は金二四四一万八七六四円であるところ、原告の過失割合に相当する二割を控除した残額金一九五三万五〇〇〇円(但し、千円未満四捨五入)が被告俊光、同保において負担すべき賠償責任額となる。

五  原告において自賠責保険から合計金四一六万円の補償金の支払を受けていることは、当事者間に争いがないから、前記損害賠償責任額から右金額を控除した残損害額は金一五三七万五〇〇〇円となる。

次に、被告らは、本件事故の結果被害車に同乗していた訴外小野総一郎に対する損害賠償額のうち原告の過失割合に相当する二割は原告において負担すべきものであるから、この金額と本件損害賠償請求額とを対当額で相殺する旨主張するので、判断を加える。

小野総一郎が本件事故により被告ら主張のとおり負傷し、被告保が小野に対し損害賠償として金二九〇万三六〇〇円を既に支払つていることは、当事者間に争いがない。しかして、本件事故が、加害車を運転していた被告俊光と被害車を運転していた原告との双方の過失が競合して発生したものであり、双方の過失の程度を比較検討すれば、被告俊光の過失割合は八割、原告のそれは二割に相当するものであることは、前判示のとおりであるから、第三者である小野に対する損害賠償も右の割合に応じて加害車側の責任者である被告俊光、同保と被害車側の責任者である原告とがそれぞれ負担すべきものであり、したがつて、被告保は原告に対しその負担部分に相当する金五八万〇七二〇円の求償権を有するものとするのが、衝平の観念に合致するものというべく、不真正連帯債務であるから債務者相互間に求償権が発生しないとの原告の主張は独自の見解に基くものであつて採用し難い。よつて、被告らの相殺の主張は理由があり、原告の本件損害賠償請求権中金五八万〇七二〇円が相殺によつて消滅したものといわざるをえない。

したがつて、被告俊光と同保は、それぞれが、原告に対し本件損害の賠償として残額金一四七九万四二八〇円を支払うべき義務があり、これは不真正連帯債務の関係に立つものである。

六  原告の被告会社に対する請求について考える。被告保が、昭和四九年五月三一日、被告会社との間に、加害車について対人賠償保険金額一〇〇〇万円、保険期間昭和五〇年五月三一日までの自動車保険契約を締結していること、右保険金額は一事故につき金一〇〇〇万円の約定であるところ、被告会社は、被害車に同乗して同じく負傷した前記小野に対する損害賠償として既に金二〇二万九一五〇円を支払済であり、保険金の残額が金七九七万〇八五〇円であることは、当事者間に争いがない。したがつて、被保険者である被告保が本件損害賠償責任を負担することにより蒙つた損害につき右保険金残額七九七万〇八五〇円の限度でこれを補填するための支払をなすべき義務が、被告会社に発生しており、原告は、被告保に代位して、被告会社に対し直接右保険金残額の支払を求めることが許されるものというべく、被告会社は、原告に対し右保険金残額金七九七万〇八五〇円を支払う義務がある。

七  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告俊光及び同保のそれぞれに対し、損害の賠償として金一四七九万四二八〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年三月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告会社に対し、対人賠償保険金残額金七九七万〇八五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年二月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において正当であるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 金澤英一)

計算表

1 期間 54.4~55.3 平均賃金額 109,799円

109,799円×12×0.7835=1,032,000円(千円未満四捨五入、以下同じ)

2 期間 55.4~95.3

(1) 期間 55.4~57.3 平均賃金額 109,799円

109,799円×12×(5.7863-4.3294)=1,920,000円

(2) 期間 57.4~62.3 平均賃金額 139,480円

139,480円×12×(8.8632-5.7863)=5,150,000円

(3) 期間 62.4~67.3 平均賃金額 190,188円

190,188円×12×(11.2740-8.8632)=5,502,000円

(4) 期間 67.4~72.3 平均賃金額 234,128円

234,128円×12×(13.1630-11.2740)=5,307,000円

(5) 期間 72.4~77.3 平均賃金額 290,287円

290,287円×12×(14.6430-13.1630)=5,155,000円

(6) 期間 77.4~82.3 平均賃金額 338,351円

338,351円×12×(15.8026-14.6430)=4,708,000円

(7) 期間 82.4~95.3 平均賃金額 367,702円

367,702円×12×(17.7740-15.8026)=8,699,000円

(1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6)+(7)×45/100=16,398,000円

3 1+2=17.430,000円

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